いまだ世界各地で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による感染症拡大が広がるなか、僕たちは長いSTAY HOMEを経て、ウイルスとの共生を図るため、新しい生活様式を取り入れようとしています。よく知られているように、人類と感染症の歴史は古く、ペストや天然痘、コレラなど歴史的な出来事として記述されているだけでも多岐にわたっています。
いっぽうで感染症の大流行は、人々の考え方や行動様式を劇的に変えるきっかけになってきました。奈良時代に流行した天然痘の感染終息を願って東大寺の大仏が建立されたり、14世紀のヨーロッパで流行したペストが封建社会崩壊の一因になったりしたように、感染症のパンデミックが世の中の大変革や進歩、社会の改善につながったとも言われています。しかし、パンデミックそのものが社会変革をもたらしたものではなく、実は「見えないもの」はそれまでも潜在的に存在しており、パンデミックによって加速し、露呈したに過ぎないのです。
振り返ってみると、感染症のような「見えないもの」との付き合いは、いまに始まったことではありません。とくに日本では古来より、見えないものを見ようとする文化がありました。邪気を払うための「節分」の風習や、ウイルスによる疫病を擬神化し、養生法や呪術により、これらの疫病神を退治しようとしていた歴史など、日常に見えないものを恐れ敬う暮らしがあったのです。そして現在でも、福島第一原発から漏れ続ける放射能や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、数え切れない「見えないもの」の脅威にさらされながら僕らは生きています。同時に、そうした得体のしれないものがもたらす漠然とした不安は、悲しいことに、常に人々の差別や分断を生んできました。
そこで本展では、「見えないもの」をテーマに創作を続ける人たちの表現をご紹介します。本展で紹介する人たちは、それぞれ独自の方法で「見えないもの」を可視化させ、その時代の空気を記録しておこうと試みています。「見えないもの」に対し想像力を巡らせることは、人間以外の生命を畏れ敬うことです。そうした想像力は、困難な状況においても、なお分断を乗り越え、人々をつなぎとめるための想像力にほかならず、現在そして将来起こりうるべき脅威に対し、対抗する力になり得るかも知れません。