クシノテラス所蔵品展
vol.1
2021/09/10 2021/12/29
11:00 ~ 17:30
休館日:毎週木曜日
2021/09/10 2021/12/29
11:00 ~ 17:30
休館日:毎週木曜日
2021年1月より、静岡県へ移住し「アーツカウンシルしずおか」でチーフプログラム・ディレクターとして勤務しているため、アートスペースとしての「クシノテラス」の活動はお休みしていますが、このたび第1回目のクシノテラス所蔵品展を「にしぴりかの美術館」で開催する運びとなりました。今回ご紹介するのは、4名の表現者たちです。
大阪府在住のラーテルさん(あなぐまハチロー)《生年非公開》と名乗る女性は、発達障害や鬱病、統合失調感情障害など、さまざまな障害を抱え、中学生のときから自宅で不思議な生物を描いて過ごしています。神奈川県在住の小林伸一《1939-》 さんは、75歳ごろから自宅の外壁だけでなく、トイレや風呂場など一軒家全てを手描きの絵で埋め尽くすようになりました。天井にもお菓子などをモチーフにした絵を貼るなどの徹底ぶりです。島根県在住の戸舎清志《1969-》さんは、建物以外の道路や駐車場、空き地などすべての空間が、たくさんの車で埋め尽くされた町の俯瞰図を描き続けています。そして、栃木県那須高原にある私設博物館「創作仮面館」の館主を務めていたストレンジナイト《生年非公開-2018》と名乗る人物は、人前に出るときは常に自作の仮面を被り、人目を避けマスクマンとして生活していました。館の内外には、彼が制作した多量の仮面やオブジェ、絵画などがいまも残されています。
性別や生まれ育った場所など異なる環境に置かれた4名の表現者たちですが、共通しているのはそれぞれが独自の世界を構築し、圧倒的な数の作品をつくりだすことで、それを生きる力へと変換している点です。新型コロナウイルスの感染拡大が続き、自由に外出することも危ぶまれる状況ですが、こんなときこそ彼ら彼女らのようにみずからの表現へ没頭することで、未来への希望を紡いでみるのも良いのかも知れません。遠くなってしまった宮城県に思いを馳せながら、僕も静岡から展覧会の動向を静かに見守りたいと思います。
櫛野展正
(クシノテラス主宰/アーツカウンシルしずおか チーフプログラム・ディレクター)
RATEL-SAN(ANAGUMAHACHIRO)
大阪府
発達障害や鬱病、統合失調感情障害など、さまざまな障害を抱えている。
中学生のときから家に引きこもるようになり、自宅で過ごしている。中学2年生のときに、美術の教科書に載っていた曾我蕭白(1730〜81)の絵に魅了されたことがきっかけで、15年以上にわたって、部屋のなかで絵を描き続けている。
これまでに描いた作品は優に300点を超え、生み出すキャラクターは作品ごとに異なっているが、彼女が描く絵には人間が登場しない。描かれるのは動物にも似た不思議な生き物で、どこかグロテスクなタッチが多いのは、大好きな80年代のB級ホラー映画の影響が大きい。人間以外の生き物に興味があり、彼女のペンネームは、「世界一怖い物知らずの動物」としてギネスブックにも認定されている動物「ラーテル」にあやかっている。
2012年からはTwitterを中心に発表を続けていたが、近年はSNSでの関係性に疲労し、いまも自宅で自分だけの絵を描き続けている。
SHINICHI KOBAYASHI
神奈川県
中学卒業後から木工所やボイラー会社など色々な仕事を転々とし、59歳でリストラを受け退職。翌年から、ノイローゼや脳梗塞を経験し、69歳のときには乳癌で2度の手術を受ける。
転機が訪れたのは、8年前ほど前のこと。自宅のトタンのサビを業者に塗ってもらったところ、塗装してない箇所のサビが目立ったため、みずから塗り直し、その上から絵を描くようになる。最初に描いた自宅の外壁は、通行人のリクエストに応じて描いたため、野菜や富士山、植物など、統一感のない絵が混在することになった。やがて外壁だけではなく、トイレや風呂場、寝室から階段、そして部屋の家電に至るまでハートマークや富士山などを色鮮やかな図柄で描くようになる。天井にはお菓子などをモチーフにした270枚の絵を貼っていたこともあり、家全体がみずからの描いた絵で埋め尽くされている。近年は、20歳頃からの趣味である開運のための小さな下駄制作に没頭している。
KIYOSHI TOYA
島根県
出雲市の山間部で両親と暮らしている。
建物以外の道路や駐車場、空き地などすべての空間が、たくさんの車で埋め尽くされた町の俯瞰図を描いている。描かれた建物には、実在するものも多く、職場へのバス通勤時や母親の車の乗車時に眺めた町の風景を記憶し、それらを組み合わせて描いているようだ。
3歳ごろから絵を描き始め、小学生になると定規を使って町の俯瞰図を描くようになった。中学生のときには、絵の中に人の姿を描くこともあったが、近年は建物と車だけを描いている。
制作は、休日に自室で行っている。下書きもせず画面の左下から右上に向かって、定規を使っていく。これまで描いた絵画は1500枚以上に及び、家族によって自宅の押し入れで保管されているが、描き終えた絵に執着はないようだ。
STRANGE KNIGHT
栃木県
栃木県那須高原にある私設博物館「創作仮面館」の館主。
人前に出るときは常に自作の仮面を被り、人目を避けマスクマンとして生活していた。創作仮面館の館内には、廃材などを使って制作した仮面やオブジェ、絵画などが多数展示され、建物全体も仮面や人形で覆われている。開館当初から年間を通して、ほとんどの日が休館日であり、他界後は遺族により建物の管理が行われている。
生年や本名は非公開で、その呼称が示すとおりストレンジ(風変わり)で孤独な人生を演じていた。「かつては海外の美術展にも入選するなど美術業界の渦中にいたが、『静かな所でゴミ(作品)をつくろう』と、20年ほど前に都心を離れ、縁もゆかりもない栃木県で創作仮面館をオープン。天涯孤独の身であり、毎朝、新聞配達の仕事をしながら、自宅で保護した20匹ほどの猫と暮らし、作品制作を続けてきた」と生前語っていたが、他界後、その多くが虚構であり、みずからの人生さえも「創作」していたことが判明した。
にしぴりかの美術館では、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため以下の対策を講じています。